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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)196号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  特許庁における手続の経緯および審決の理由の要点は、当事者間に争いがない。

第二  そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

一  法三条一項三号該当事由の存否について

(1) 原告は、本願商標を構成する「COPIER」の語は、「電子応用の複写機(装置)」の意を表す商品の品質表示の語として理解認識されるにとどまり、自他商品の識別力を有しないとした審決の認定判断は誤りである旨主張するので、「COPIER」の語のもつ意味と、これが本願商標の指定商品に係る分野において取引者需要者にどのように理解認識され、用いられているかについて、検討する。

《証拠略》によれば、日本国内において発行されている審決の理由の要点(3)認定の各英和辞典には、「copier」の語は「複写機(器)」を意味するものと記載されていることが認められる。《証拠略》によれば、英和辞典中には、「copier」の語を「複写人」あるいは「謄写する人」等を意味するとしている辞典もあることが認められるが、このことは、「copier」の語が「複写機(器)」を意味することを左右するものではない。

上記事実に、近時の日本国内における英語教育の普及度を勘案すると、一般に「copier」の語は、「複写機(器)」を意味する英語であると理解認識されていると認めるのが相当である。

そこで、さらに複写機の取引分野において、取引者需要者が「copier」の語をどのように理解し、使用しているかについてみると、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

a 複写機の製造販売業者である訴外富士ゼロックス株式会社、キャノン株式会社は、それぞれの商品カタログにおいて、その販売する商品である電子複写機を表す語として「copier」の語を用いていること(なお、《証拠略》によれば、原告は、キャノン株式会社との間で「COPIER」の文字からなる商標の通常使用権許諾契約を締結していることが認められるが、この契約に指定商品第一一類についての商標が含まれていないことは明らかである。)

b 原告を含む複写機等事務機器の製造販売業者が加入している訴外社団法人日本事務機械工業会や日本オフィスオートメーション協会が発行している「OA用語集」(平成元年版、平成四年版、一九九三年版)には、「copier」は複写機を意味する語であると解説されていること《証拠略》によれば、社団法人日本事務機械工業会が昭和六〇年三月に発行した「複写機用語」には、「複写機」の対応英語は「copying machine」であると記載されていることが認められるが、前記用語集の発行前のものであること、前記用語集に「PPC Plain Paper Copying machine/Copier」と記載されていることに照らし、上記認定の妨げとはならない。)。

c 商品の取引業者等に利用されている「現代商品大辞典」には、商品名「複写機(copier)」と表示されて、電子複写機等の装置が解説されていること

d 一般的な常識語を収録した辞典として著名な「知恵蔵」には、「ハンディ・コピア handy copier」の欄に充電式の携帯用コピー機の解説が、「インテリジェント・コピア intelligent copier」の欄にエレクトロニクス技術を応用しインテリジェント化した複写機の解説が掲載されていること

上記aないしdの事実に、一般的に「copier」の語は、「複写機(器)」を意味する英語であると理解認識されていることを総合すると、「copier」の語は、本願商標の指定商品に係る取引者需要者に、「電子応用の複写機」あるいは「複写機能を有する機械装置」という商品の品質(商品の種類・性能等の内容)を表す語として普通に用いられており、これを大文字をもって構成したにすぎない「COPIER」も、これを標章として使用するときは、同様に商品の品質を普通に用いる方法で表したにすぎないものと理解認識されるというべきである。

《証拠略》によれば、日本工業規格のBO一一七(事務機械用語)において、「複写機」に対応する英語が「copying machine」と表示されていること、また、《証拠略》によれば、複写機の製造販売業者中には、複写機を「copying machine」あるいは「コピーマシーン」と表示している業者や、「複写機」とのみ表示している業者があることも認められるが、そのことは、複写機を表す語として「copying machine」あるいは「コピーマシーン」を用いることもあり、また英語読みの表示を用いない業者もあるというにとどまり、前記判断を左右することにはならない。また、《証拠略》によれば、朝日、読売、毎日の各新聞記事は、複写機を「複写機」あるいは「コピー機」と表現していることが認められるが、そのことも、前同様の理由により前記認定判断を左右するものではない。

(2) 前記(1)に関して、原告は、〈1〉英和辞典の記載から「Copier」が複写機を表す語として一般に理解されているとはいえない、〈2〉「現代商品大辞典」は、本願商標の指定商品の取引者需要者の認識を示すものではない、〈3〉公開特許公報に記載された「コピア」は本願商標と構成を異にするし、誤って使用されているものであるから、これらを論拠として本願商標の登録を拒絶することはできない旨主張する。

しかしながら、英和辞典の記載事項は、日本国内における一般的な認識理解を認定する重要な資料たりうるものであり、「現代商品大辞典」も、その刊行物の内容に照らし、本願商標の指定商品の取引者需要者も利用しているものと推認することができ、しかも、前記(1)の認定判断は、これらの事実のほか、前記aないしdの諸事実を総合してなしたものであることは前述のとおりであって(〈3〉については、当裁判所の前記認定判断の資料となっていないから、判断の限りではない。)、原告の前記主張はいずれも理由がない。

さらに、原告は、古くから「Copier」あるいは「コピア」などの標章について多くの商標登録を得ており、従来これらの語を使用してきた企業や団体等も、原告の申入れによって、現時点においては「copier」の語の普通名詞的な使用あるいは掲載は行っていないと主張する。

《証拠略》によれば、原告は、

〈1〉 片仮名を横書して構成される「コピア」の標章について、旧々第一八類(理化学用の機械器具など)、旧第三類(染料など)、旧第九類(事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)など)、旧第一〇類(理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)など)、旧第一一類(電子応用機械器具など)および旧第二五類(文房具類など)を指定商品とする商標

〈2〉 欧文字で構成される「Copyer」の標章について、旧々第一八類(理化学用の機械器具など)を指定商品とする商標

〈3〉 欧文字で構成される「Copier」の標章について、旧々第一八類(理化学用の機械器具など)を指定商品とする商標

〈4〉 大文字の欧文字で構成される「COPIER」の標章について、旧第三類(染料など)、旧第九類(事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)など)、旧第一〇類(理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)など)、旧第一一類(電子応用機械器具など)および旧第二五類(文房具類など)を指定商品とする商標

〈5〉 本願商標と同じく、大文字の欧文字で構成される「COPIER」の標章について、旧第三類(染料など)、旧第九類(事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)など)、旧第一〇類(理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く。)など)および旧第二五類(文房具類など)を指定商品とする商標

の各商標権者であることが認められる。

しかしながら、《証拠略》によれば、原告が多くの企業あるいは団体に対し、自らの登録商標である「コピア」およびこれに類似する「コピヤ」、「コピアー」、「コピヤー」の標章について普通名称的な使用あるいは掲載を廃止するよう申し入れ、多くの企業あるいは団体がこれを受け入れる回答をしているが、それは、原告の会社名と同一またはそれに近似する構成の商標登録である「コピア」、「コピヤ」、「コピアー」、「コピヤー」についてであることが認められ(しかも、回答書中には、「コピア」は複写機の一般名称として長年慣用されていることを述べているものもある。)、本願商標に類似する登録商標である「Copyer」、「Copier」、「COPYER」について同様の申入れをした証拠は存しないから、この点についての原告の主張は理由がない。

(3) したがって、本願商標を構成する「COPIER」の語は、「電子応用の複写機(装置)」の意を表す商品の品質表示の語として理解認識されるにとどまり、自他商品の識別力を有しないことを理由に、本願商標は法三条一項三号の規定に該当するとした審決の認定判断に、誤りはない。

二  法四条一項一六号該当事由の存否について

本願商標は、その指定商品の取引者需要者から、何人かの業務に係る商品であるとは認識されず、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものと理解認識されうることは前記一のとおりであるから、本願商標が、その指定商品である「電子応用機械器具」のうち「電子応用の複写機」以外の物(例えば、複写機能を有しないファクシミリ、複写機能を有しない電子計算機の端末装置など)に使用されると、取引者需要者は、当該商品が本来の機能に加えて複写機能をも備えた機械装置であると考えることがないとはいえない。したがって、本願商標は商品の品質の誤認を生ずるおそれがあることを理由に、法四条一項一六号の規定に該当するとした審決の認定判断にも、誤りはない。

第三  よって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないから、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田 稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

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